ミントを生きたまま分析する :5日間香り成分の変動をモニター

2024.11.25 19:19 - By まっさー

Featuring

これらの装置で実験しました!↓

Ion source: ChemZo
Mass spec: QTof-MS
Sampling device: 4ch-S

お時間のない方は約3分の動画を見てもわかりますよ!↓

はじめに

都市型農業では、限られた土地を活用して様々な作物を育てる一方で、肥料や農薬のコスト削減、そして水資源制約といった課題にも直面しています。安定した収穫を実現するためには、生産者の勘に頼るのではなく、植物の健康状態を化学的観点から正確に知ることが大切です。

植物は、外部からの刺激(例えば害虫の侵入)や環境的なストレス(高温や乾燥など)を受けると、「揮発性有機化合物(VOCs)」と呼ばれる物質を放出することが知られています。このVOCsは、植物の防御反応の一部として働いているのですが、現状では生きたままの植物からVOCsを測定することが難しいです。

そこで本稿では、都市型農業の生産性を向上させるための新しい仕組みとして、神奈川県藤沢市とのコラボレーションで実施されました。ここでは、アンビエントイオン化質量分析法を使い、植物が放出するVOCsをリアルタイムでモニタリングできるシステムを開発しました。これにより、植物の健康状態をすぐに確認できるようになり、客観的にその状態を評価できます。

用意するもの
  • 藤沢産のミントを2種類:AとB(Aを屋上と実験室の2か所に、Bを屋上のみに設置しました)
  • VOCsのサンプリング装置
  • リアルタイムモニタリングが可能なイオン源:ChemZo(自社製、近接コロナ放電イオン化法)
  • 質量分析計:compact(Bruker社製、測定モード:正イオンモード)

ミントと装置を設置した様子を図1と図2に示します。

    図1 屋上でサンプリングしている外の空気 (B) と藤沢産のミントを二種類(1, 3)

    図2 実験室で藤沢産のミントをコントロールとしてサンプリングします

    ​​​サンプリング装置について

    これまでは存在していないので、VOCsをサンプリングできる装置を開発しました。

    その名前は、4ch(よんちゃんねる)気体サンプリング切り替え装置(4ch-S)です!

      この装置は、気体サンプルの流路を決まった時間ごとに自動的に切り替えサンプリング装置です(図2:装置の写真、図3:概略図)。

        育てるミントをテントで覆い、テントに開けた穴に10メートルの長さのチューブを差し込み、ミントと4ch-Sの間に経路を作りました。

        そして、分析するために、4ch-Sを質量分析計に繋ぎ、成分分析をします。

          この装置を質量分析計に繋ぐことで、サンプリングした気体成分がイオン化され、成分分析ができます。

            試しで、5日間にわたり10分ごとに連続測定を行いました。

              図3 本研究で用いた装置構成とサンプリングシステムの概略図 紫(1):屋上の藤沢産ミントA、オレンジ(2):実験室の藤沢産ミントA、緑(3):屋上の藤沢産ミントB
              ミントのリアルタイム測定

              では、リアルタイムで測定したミント中の揮発性成分の信号はどのようなものなのかを紹介します。

              図4にはm/z 153の時系列的な変化をモニターした結果です。

              これは、よく知られているミントの成分のプレゴン(分子量:152.23)がプロトン付加イオンとして検出されました。

                紫色の矢印は屋上の藤沢産ミント、オレンジ色の矢印は実験室の藤沢産ミント、そして緑色の矢印は屋上の藤沢産ミントの信号プロファイルを表しています。

                測定は紫色 ⇒ オレンジ色 ⇒ 緑色の順番で行われたため、信号プロファイルもこの順に観測されました。

                  図4 1時間の測定に渡ったm/z 153の抽出イオンクロマトグラム (EIC) です。ここでは、 4ch-Sが藤沢産ミントA(紫、屋上)⇒ 藤沢産ミントA(オレンジ、実験室)⇒ 藤沢産ミントB(緑、屋上)で切り替わる際の信号プロファイルを示しました。各試料間にガスブランクを挟んで測定を行いました。
                  プレゴン以外の揮発性成分

                  ミント内にプレゴン以外、他にどのような成分が入ってるのでしょうか?

                    4ch-Sを使った際に得られた藤沢産ミントマススペクトルを図5に示しています。

                    ここでは、リモネン(m/z 135)やプレゴン(m/z 153)由来の信号を確認できました。

                      図5 4ch-Sによってサンプリングされた藤沢産ミントA由来VOC成分の代表的なマススペクトル

                      比較のために、図6ではつぶしたミント葉をChemZoの近くでかざした際に得られたマススペクトルです。

                      これにより、藤沢産ミントAからはリモネン、プレゴン、ミントンを含む複数の成分があるとわかりました。

                      一方で、藤沢産ミントBではプレゴンとメントンをはじめ、シネオールも高く検出されました。

                        図6 つぶしたミント葉(藤沢産AとB)のマススペクトルの比較

                        そして、もう一つの比較データのGC/MSの測定(図7)では、リモネン、シネオール、メントン、メントールとプレゴンが検出されました。

                        これらの結果から、4ch-Sを使った気体成分のみのサンプリングでメントンとメントールが検出されなかった理由として、

                        • メントンは、ミント葉をつぶさないと放出されにくい成分であること
                        • メントールは、検出のために必要な最低感度(検出下限)が高いため、検出できなかった可能性がある
                        ​と考えられます。
                        図7 GC/MSによって確認されたミント葉中のVOC成分
                        長時間モニタリング

                        最後に、5日間の長時間連続測定を行いました。

                        ここでは、気温や湿度といったパラメータの影響で、ミントから発生する成分がどのように変動するかを調べました。

                        図8ではプレゴンm/z 153, 上)とシネオール(m/z 137, 下)の変動を示します。

                        温度は黒の実線、湿度が点線です。

                        湿度が上がった際や雨の日には、プレゴンの検出も高くなり、湿度によるストレスの影響で、プレゴンを放ったと考えられます。

                        室内に置かれた藤沢産ミントはこのような傾向が見られなかったため、環境による影響が大きいと言えます。

                        シネオールについては、湿度が高い時や太陽が出ていない時には、高く検出されたことから、夜にしか出ない成分の可能性が高いです。

                        図8 5日間の連続測定における外の空気 (B) と3種類の藤沢産ミント中 の(上)プレゴンおよび(下)シネオールの変動

                        以上の結果のように、4ch-SによってVOCsの変化を長時間にわたり観察することに成功しました。

                        今後は、多変量解析を活用して、環境変化に応じて変動する成分の特定を行う予定です。

                        これにより、環境の変化とVOCの関係をより詳しく明らかにすることを期待しています!